Thee Rang 跡地

https://solaponz.hatenadiary.jp/ 跡地

タイ下院解散総選挙実施、タクシン復権へ

 イにて下院解散に伴う総選挙が実施され、2006年にクーデターでタイを追われた元タクシン首相の妹である、インラック・チナワットが初の女性首相となる事が決定的になった。クーデターは、以前このブログでも取りあげた事がある。

クーデター!!??


http://d.hatena.ne.jp/solaponz/20060920

タイで長く政治騒乱が続いている事は、多くの日本人もなんとなくニュースで見聞きしているのではないだろうか。赤シャツVS黄シャツなどとしてバンコク市内でデモ合戦をしてみたり、スワナプーム空港を選挙してタイ発着の国際便を数日間足止めしてみたり、バンコクのど真ん中、東京でいうと渋谷の交差点のような場所を中心としてプチ内戦(日本人カメラマンも巻き添えに遭い死亡)をしてみたりと、タイの恥を国内外に晒し続けて久しい。

僕のように、タイに深い関係がある人以外は、このニュースをどのように捉えるものなのか理解する事は難しいかもしれない、ので、簡単に以下にまとめる。

タイ政局をサマってみる
タイの政争は、シャツの色にも表れている通り、『黄VS赤』として捉えるのが最も手っ取り早い。

【黄組】

  • 国宝陛下を擁立する枢密院、国軍をバックとする保守派層。絶大な既得権益をもつ。
  • 首都バンコクが支持基盤。
  • 2006年のクーデターで赤組を激派し、小競り合いを続けつつも政権を維持してきた。
  • アピシット現首相。今日の選挙で赤組に敗れた。
  • 空港占拠した人達。
  • 赤組への批判『敬戴すべき国王を蔑ろにし、金にあかせてタイを支配しようとした!』

【赤組】

  • 経済界から金の力で政治を動かそうとする革新派層。既得権益を挑発しまくった。
  • 田舎の地方が支持基盤。
  • 『タイのCEO』と呼ばれたタクシン元首相派。彼は2006年9月にクーデターでタイを追われる。
  • 2009年、パタヤで予定されていたASEANの首脳会議をデモ隊の会場侵入により妨害。
  • 2010年、バンコクにてUDDのデモにより武力衝突を惹起、都市を破壊するきっかけを作った人達。
  • 今日の選挙で赤組を撃破。タクシン元首相の妹のインラックが新首相となる。
  • 黄組への批判『これまでさんざん甘い汁吸いやがって、これから既得権益をとっぱらってタイ経済を発展させる!あと国王尊敬してるから嘘ばっかり言うの辞めろ。』

タクシン元首相の功罪
僕個人はこのBlogで政治について持論を述べることは絶対にない。しかし、客観的事実ならいくらでも書く。

2001年2月に首相に就任したタクシンは、『タイのCEO』と呼ばれるほど、タイの経済的発展を志した。その手法は大胆だが効果的で、タイのブランド化を推し進め観光立国としてのタイを世界中にアピールし、多くの投資家や観光客を誘致した。公的資金を惜しまず使うその手法はタクシノミクスと呼ばれ、世界から注目された。
彼の功績としては、麻薬や大小のマフィアの一掃を図った事(麻薬犯罪者は現行犯で即射殺可能とした)、ないがしろにされていた地方住民への物理的、金銭的、文化的援助を行った事、タイの税収を大幅に増加させた事、治安や衛生環境の向上に努めた事、などが挙げられる。
中でも、地方へは多大な投資を行った。とある有権者は、「自分の一票が自分の生活向上に役立つという事を彼が初めて教えてくれた」とタクシンを崇める。彼は任期を通じてバラマキ政策と揶揄される程強引であったが、日本に倣って一村一品を展開し地方の自立を促しもした。
なにより、任期中は97年のアジア通貨危機で少なからぬ打撃を受けたタイのGDPを右肩上がりに押し上げ、併せて民間投資や税収も大幅増とした。

反面、金にあかせたドス黒い噂が耐えなかった。
地方の有力議員は金の力で次々と買収し、取り込んだ。マスコミに親族を送りメディアを支配し、自身に関連する企業以外の広告を閉めだしたり、政治的に不利な報道をやめさせたりした。彼の出自である警察界はもちろん、法曹界にも根を張り、敵対勢力の排除と言論統制に注力した。自社の株式を不正に売買し徴税を逃れたとされ、何かと金に関する黒い噂が耐えなかった。マフィアや麻薬を一掃したのも、その利権を自身に付け替えようとしていたという説もある。
なにより彼に決定的打撃となったのは、王室への不敬をさんざん攻撃された事だった。これが後のクーデターに大義名分を与える格好となり、致命傷となった。

インラック勝利の意味する所
5年の時を経て、再びタイ国民はタクシン政権に国家の運営を託す事を選択した。背景には伸び悩むタイの景気と、悪化する治安への潜在的な不満があると思われる。貧富の差はますます広がるばかりで、保守派も内部抗争を繰り返し有効な政策をうつ事ができなかった。タイ国民は、一度タクシン政権を経験しているだけに、彼の政権の悪しき面も理解しているはずだ。しかしその上でこの結果というのは、タイ国民の総意は、強引な統制を受け入れてでも、再びタイの経済と治安の向上に期待をかけるという事と理解できる。
これからのタイ情勢の危惧
これからますますタイは荒れるであろう。国王陛下の体調はあまり優れず、国民の心配事となっている。反タクシン派の急先鋒であるPADは、現政権とは距離を置いているとはいえかつて国際空港の選挙という離れ業をやってのけるほど過激な団体である。アピシット首相の失脚により、再度擡頭すべく動き出す可能性は非常に高い。
また、かつて武力に屈し、国外を転々とせざるを得なくなったタクシンがもし帰国するとなれば(新首相インラックは全力で実の兄である彼の帰国をサポートするだろう)、今度は何に力を入れるかは容易に想像がつく。敵対する軍閥を如何に無力化し、対抗しうる武力を確保するかが彼の喫緊の課題となるだろう。二大勢力の衝突が、また以前のようなバンコク都内に多大な被害をもたらすものであって欲しくない。王室の抑止力もどのように働くのかまだまだ見えない。もしそうなれば、いよいよ国際的なタイの評価は致命的な打撃を受けてしまうだろう。
democracy or democrazy
タイのデモクラシーは、いつ完成の陽の目をみるのか。

最後は国王がいるからどうとでもなる、とタイ式デモクラシーを掲げ無理を通すのはいい加減やめにしてほしい・・・というのは、タイを愛する一日本人のささやかな願いなのだけど。