Thee Rang 跡地

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海洋国家日本 (the sea country Japan)

 本は世界の主要国の中でもかなり小さく、ちっぽけな島国だなー、、、と思っている人は間違えている。僕も間違えていた。日本はある意味世界で第六位の大国だ。
 Wikipedia-排他的経済水域

 日本の国土・領海・EEZ面積は世界6位
日本の国土は約38万km2で世界第60位だが、領海とEEZを合わせると約447万km2で世界第6位となる。日本は漁業や海運などが盛んな海洋国家でもあり、狭い島国などと固定観念を抱いていたとしたらそれは間違いであると言っても過言ではない。

 上に書かれているように日本は海洋国家だ。日本人の伝統的な食事は米や魚だったことからも判るように海の恩恵というのを一心に受けた国家らしい。海の資源はどこの国にとっても非常に重要で、諸外国から明らかに岩だからあきらめろと散々いわれ、また日本人達もありゃ岩だわ、とか諦めているにも違いないであろう沖ノ鳥島を守るために滑稽にも思える護岸工事を施し、東京都の管轄から国の管轄*1へと移った事実からも判るとおりそれだけ海域というのは日本にとって重要な意味を持っているらしい。僕の好きな本で鶴見祐輔という人の「北米遊説記」というのがある。この話は、新渡戸稲造について渡米した後、主に大正時代、昭和初期に日本とアメリカを行き来し、二国の理解と友好をより深めようと精力的に講演活動を行った偉人がある北米遊説の際の事をつらつらとつづった名著だ。初版は1902年で、主立ってはその時代のBig Issueである排日移民法について述べられている。
 この本の出だしは海に関する一節から始まる。その文章が、海洋国家日本の代表的文化人にふさわしい流麗な文章なので、少し長いが引用する。最近美しい文章に触れていないという方にとっては何十と繰り返して読み荒れた読書眼を癒す麗文だと思う。*2旧字体は現代漢字に置き換え、部分的に読み仮名を補足する。)

 黒潮の貫き走る太平洋という海が、日本の岸邊を淙々と洗つてゐる、といふことの深い意味が、近頃ますゝゝ強く、私に迫つてくるやうな気がする。
 私はこの大きい海を、色々のところから眺めた。太平洋上の十字街路といはれる布哇(ハワイ)の、ワイキーキーの碧(あお)い波も見た。やがては太平洋岸の紐育(ニューヨーク)になると言はれる、南加州ロースアンゲレスの港の水の温むのも見た。古今千年の夢を封ずるロマンチックな瓜哇(ジャバ)の島影の藍濤も見た。二十世紀の風雲を懐に抱くパナマの町のほとり、烈日の下にキラゝゝと輝く水も見た。しかし、何と言つても私は、太平洋は日本の海だと思ふ。
 一月の初めにも、青い葉陰に赤い蜜柑の香る伊豆半島から見た海路、桃の花の咲きこぼれる折、ぽかゝゝとした春の日差しを背にうけながら眺めた駿河灣の碧い水、太平洋の怒濤此処に眠る夏の濱名湖、絵描けるごとき宇和島の海、楠の大樹の影をひたしたまゝ汪洋とうねる土佐灣の海波、それ等の一切が、日本の太平洋である。北の方には鯡(にしん)を追い、南の方には鮪を漁(すなど)るのが、日本の太平洋である。夏は竹藪と芭蕉の林一時に茂り、冬は赤い蜜柑に雪の積もるのが、日本の太平洋である。駿河灣の波打際からすぐ一躍天に迫る一萬二千尺の芙蓉峰ともなれば、伊豆の大島から四五里にして、一落六千尋の世界第一の深い海ともなるのが日本の太平洋である。
 天はこの小さい島のうちに、寒帯と温帯と熱帯との動植物を與へ、海に近き最高峰と陸に近き世界最深海とを與へ、積雪五尺の寒威と五丈の竹藪を生ずる熱気とを併せ與へ、端西の風景に仏蘭西の気候を恵み、一つの民族を二千五百年の間閉ぢ込めて、全世界の国々の栄華の次ぎ次ぎとと絵蒔物(えまきもの)のように繙りつくさるゝ日までこの邦を保存してくれたのである。その一切の恩恵は、この太平洋という海の賜物なのだ。刧初以来、幾萬、幾十萬年、滔々とこの島根を洗つてゐた海の上に、とうゝゝ全世界の文化の中心が廻って来たのだ。

これほど日本人の心に海の意識は深く根ざしている。水についてのことわざも豊富で、『水に流す』、『水くさい』、『水入らず』、『水至りて魚行く』、『水を向ける』等等。よくよく考えれば、『水に流す』などは、日本の急な河川にひとたび物事を流せば程なくして大海に注ぎ、文字通り『海の藻屑』となってしまうという見事にイメージし易い絶妙な日本語のような気がしてくる。どこか別の国のある内陸地域では、数百年以上前の裏切り者の汚名を着せられた犯罪者が道端に座り込んでいる銅像に対し、いまでも通行人が唾を吐くという。『水に流す』概念のない大陸国と一言で片付けてしまえばそれまでな上に別にどっちがいいとか悪いとかの問題ではないけれども、僕にとっては驚くべき発想だった。
 近年、日本を取り巻くトラブルでは当然のように海に関するものが大変に多い。
 記憶の新しいところだと、先日北海道で起こったロシア関連の痛ましい事件が真っ先に思い浮かぶだろうが、デリケートな問題だけにあまりマスコミには取り上げられないものの近隣の韓国、北朝鮮、中国などとの死人がでるレベルの海洋事件は決して珍しい事ではない。
 そういった事件の中で近年強烈な印象だったのが2001年の東シナ海における北朝鮮工作船侵入事件だ。日本のEEZ排他的経済水域)内で不審な船を海保が発見・追跡し、最終的に工作船が沈没してしまった事件だ。こちらのホームページから緊迫した当時の状況がひしひしと伝わってくる気がする。
 この事件についてはまさに賛否両論といったところで、当然共産党の見解などは批判的なスタンスにたっている。個人サイトをリンクして引用することは避けるけども、他にも批判的な内容の意見は散見される。僕は平和を愛する人間なので、もちろんこの事件は大変に悲しい事件だと思っている。ただし、最終的に工作船が自爆*3し沈没して背後組織や侵入目的の調査が難しくなってしまった事と、その工作船の乗組員が死亡しいかなる証人も得られなかったに対して悲しんでいる。さらに政府はこの工作船を引き上げる決断を下し、実際に引き上げて慎重な捜査を進めたようだ。その後日朝国交正常化交渉*4は飛躍的に進んだが、この事件が関係あるかどうかはわからない。
 無論この事件だけでなく、台湾、中国、韓国、ロシアとの海洋資源をめぐる争いは全く解決の糸口さえ見出せない状況で、これからもそのようなものが見出せる可能性は皆無に近い。尖閣諸島近辺の地下資源採掘問題で政治ゲームが繰り広げられているが、中国の巧みで執拗な外交戦略に日本政府はなす術無しといった様相だし、竹島問題にしても韓国による実効支配をどうにかするわけでもなく、先日の調査船派遣問題で明らかになったように相互理解の道のりは遥か遠く道の彼方といった感じだ。ロシアとの北方領土問題などは言うに及ばない。
 マスコミが報じない『高度に政治的』な問題だからこそ、情報収集にインターネットは非常に有効な手段となる。無論日本側の情報ばかりを見ているのではアンバランスな気がするので、中国側のサイトや主張を覗いて見たいのだがどうにも中国語が読めないのでうまくいかない。海というのはもぐって魚や珊瑚礁をながめたり、サメを追いかけたりするだけのものではなく、こういったどろどろとした利権問題も絡んでいる、いや、その重要性の中に日本においてさえ戦争へと発展するほどの危険性を孕んでいるという事を認識することは、四国で育ってタイの国の美しい海に感動した僕にとっても大事な事だ。

*1:国土交通省 関東地方整備局 京浜工事事務所の海岸課というところが管理しているらしい。

*2:ちなみにこの文章は「太平洋時代の暗示」と題してはしがきとして上梓されている。長くないので前文掲載したいところだがやっぱりしんどくなってリタイア。しかしタイトル、内容ともになんという慧眼だろうと驚くばかりだ。これほどの学者は一体日本に現在何人くらいいるのだろうか。ちなみにこの鶴見裕輔は以前も書いたが、第一次鳩山内閣厚生大臣として政治家としても活躍している。

*3:先でリンクしている人事院総裁賞のページに、「不審船は、原因不明の爆発の閃光を残して午後10時13分、あっという間に水没した。」とある

*4:なんのために?という素朴な疑問があるだろうが、なんとお上・外務省HP上にて回答がなされている。長いが興味深いので引用する。
『●Q.北朝鮮との国交正常化は本当に日本の国益となるのでしょうか。
 ●A.我が国が北朝鮮との間で国交正常化を行うということにはいくつかの側面があります。
第一に、我が国がかつて植民地支配を行った地域との関係を正常化するという側面です。我が国がかつて朝鮮半島支配下に置いたこと、及びそこに住む人々が耐え難い苦痛と悲しみを感じたことは紛れもない事実です。こうした過去の歴史を直視し、朝鮮半島との関係を正常なものとすることは、我が国にとって歴史的・道義的な課題であるともいえるでしょう。ちなみに、国連に加盟している200近い国々の中で、我が国が国交を持っていないのは、我が国の目と鼻の先にある北朝鮮のみです。これほど地理的に近接した日本と北朝鮮が、半世紀以上にもわたりそのような関係のままでいること自体不正常なことであるといえましょう。
第二に、日本の安全保障に直接の影響を及ぼす北東アジア地域に平和と安定をもたらし、ひいては我が国の安全保障を高めるとの側面があります。特に、我が国を射程に収めた北朝鮮弾道ミサイルは、我が国に対する直接の脅威であり、これを取り除く必要があります。そのためにも、日朝間に対話の場を設け、その脅威を小さくしていくことは我が国の安全保障上の利益になるものと考えます。
第三に、拉致問題などの人道問題をはじめとする日朝間の様々な懸案において、目に見えるような進展を得るとの側面があります。そのためには、いたずらに北朝鮮を孤立に追いやるのではなく、むしろ対話を進めていくことにより、これらの解決の糸口を見出していくほかはないと考えています。北朝鮮との交渉は容易なものではなく、決して焦る必要はありませんが、北朝鮮との間で対話に努め、これを1つ1つ進めていくことで、やがては信頼関係の醸成につなげていくことが大切だと思います。
以上に述べたような、幾つかの側面を踏み外さずに日朝間で国交正常化が実現すれば、それは我が国の国益に資するものと考えます。国交正常化という大きな目標に向け粘り強く取り組んでいくことこそが、日本にとって最善の選択であると考えています。』