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世代会計の明暗

 代会計(Generational Accounts)という言葉をご存知だろうか?用語と内容については秋田大学教育文化学部准教授・学長補佐、島澤諭氏のWebページが非常に詳しい。大まかに言うと若者は高齢者よりどのくらい損(もしくはトク)をするかを数値として示した指標となる。以下は上記より引用。

世代会計とは、現在の財政や社会保障等を中心とする政府の支出・収入構造と、今後実施されることが明らかにされている政策(例えば、年金支給年齢の引き上げ、医療保険の自己負担率引き上げなど)を、前提とした場合、どの世代が得をしどの世代が損をするのか、定量的に評価する枠組みで、1991年に Auerbach,Gokhale and Kotlikoff が"Generational Accounts: A Meaningful Alternative to Deficit Accounting" Tax Policy and the Economy で提唱したものです。Kotlikoff たちは、伝統的な「政府財政赤字」概念に対して、新古典派経済学の視点から新たな枠組みを提示しました。もう少し具体的に言うと、世代会計とは、現役世代や将来世代の負担を前提として成り立っている公的年金制度や医療制度等の政府の経済活動を世代間の損得勘定から評価するための手法であると言えます。

何事も原典に当たる主義なので論文でぐぐってみたが、そのものが速攻でHITした。しかし私立文系学生であった僕はTexなど使ったことが無かったので、HTMLとTEXTでダウンロードできるのを見つけてクリックしてみたがToo many request queued(処理できません)と出てダウンロードできない。なので、Abstract(概要)だけ以下に抽出してみる。

This paper presents a set of generational accounts (GAS) that can be used to assess the fiscal burden current generations are placing on future generations. The GAS indicate the net present value amount that current and future generations are projected to pay to the government now and in the future. The generational accounting system represents an alternative to using the federal budget deficit to gauge intergenerational policy. From a theoretical perspective, the measured deficit need bear no relationship to the underlying intergenerational stance of fiscal policy. Within the range of reasonable growth and interest rate assumptions the difference between age zero and future generations in GAS ranges from 17 to 24 percent. This means that if the fiscal burden on current generations is not increased relative to that projected from current policy (ignoring the just enacted federal budget deal) and if future generations are treated equally (except for an adjustment for growth) the fiscal burden facing all future generations over their lifetimes will be 17 to 24 percent larger than that facing newborns in 1989. The just enacted budget will, if it sticks, significantly reduce the fiscal burden on future generations.

というものらしい。
島澤氏のページにある通り、依然議論の余地がある指標である事は否めないが、しかし現在我々若者(?)が感じている高齢世代との不公正感を数値で表したものとしてはとても分かりやすいものだ。
島澤諭氏のページの表によると、簡単に書くと以下のようになる。

現在の歳 損得金額

10歳   -2100万円

20歳   -2600万円

30歳   -2400万円

40歳   -1900万円

50歳   +659万円

60歳   +1100万円

70歳   +1600万円

これから産まれる人 -1億円

という感じか。つまり今現在20歳のあなたは、おめでたい事に公平な状態よりかも2400万円も損をしている事になる。これでもずいぶん楽観的な見方だとは思うけどなあ。
そして、先の論文の要旨にあった"future generations are treated equally (except for an adjustment for growth) the fiscal burden facing all future generations over their lifetimes will be 17 to 24 percent larger than that facing newborns in 1989."という示唆は、日本に比べなんと生やさしい予測値だろうか。
もうちょっと突っ込んだ*1分析は「世代別の受益と負担〜社会保障制度を反映した世代会計モデルによる分析〜」にある。ここでは、「生涯純(税)負担率」という指標を用いて所得のうちどれだけの割合を負担に回しているかを表していて、やはり5〜15歳の生涯純負担率が高いというのが見て取れる。
いずれにしても、日本の若者に負担が増えていっているのは間違いない。僕自身も、会社の給料をぱっと眺めてみてもあきらかに30代中盤社員とそれ以下に大きな壁があるのを感じる。


さて、日本の老人はスゴい。田舎の農家をぐるっとまわってみたら、田んぼの中にぽつんと立っている農家の平屋の脇の、古びた納屋にベンツが二台並べておかれていたりする。息子・娘の住宅ローンをポンと肩代わりしたりもする。悪質な詐欺の被害にあい数百万円持って行かれる事もあるし、ペイオフ発動により数千万損をしたお年寄りがテレビ画面で激怒していたりする。
"高齢者は金を溜め込んでいる"というのは非常に穿った偏りのある見方だが、僕自身の経験でいうと小さいころ、ふと遊びに行った友達の祖父母ので、飾られてある絵画の額の裏をのぞいたら、札束がみっちり詰められていて愕然とした記憶がある。あれは逆に危ないような…。
現在日本に存在する金融資産の6割は60歳以上が占めていると言われるが、50代以上だと8割にも達する。彼らが絶大な票田となり、シルバー・ポリティクスと呼ばれる高齢者による高齢者のための高齢者による政治が展開され、所得税増税などサラリーマンが自転車操業の漕ぎ手となる。若者は政治に失望し、より国政関心を向けなくなる。結果として、海外への人材流出が発生し、それに伴い企業も海外移転を勧め技術流出が起こる。新たな産業も育たない。今、日本って非常に悪いスパイラルの中にいるなあ…と感じる人は、結構な数いるように思う。

じゃあどうすればよいのだろう?世代会計は我々にどういう示唆を与えてくれるだろうか。
たぶんその中の一つは、変化に対応すること、だと僕は考える。今後あなたたちは黙って生活してると損するだけなんですよ、今の政治システム・経済活動システムではそういう状況へと変わっていくのが既定路線であり、かつ構造的にこれは変革することが非常に難しいのですよ、なので、なんとか自分たちで負担に押しつぶされないよううまく対応してやっていってね、、、と教えてくれている気がしている。

変えてかないとなー…

*1:現在世代の過去分の受益・負担を計測した、生涯にわたる世代会計試算