Thee Rang 跡地

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戦えニッポン

 本人の僕が戦えニッポンというと、とても無責任で他人ごとの様に聞こえてしまう。しかし、誰がどう見たって今の日本の停滞した空気は今までに体験した事がないほど人々を不安に陥れている。関西に住んでいる人はあまり感じ無いだろうが、東京の街を歩いていると以前とのギャップがあまりにも大きく、しばし呆然とする事がある。

海外で電車に乗ったりした事がある人は分かるかもしれないが、今、東京の色々な駅が海外の駅のように、薄暗〜くなっている。言うまでもなく節電節電で照明を落としているためだ。普段見慣れた明るい駅の外観も、構内も、驚くほど当たり前のように暗く静かに迫ってくる。東京で働く人達はみんな表情を暗くして歩くのが決まりなので、暗いところを暗いのがぞろぞろと歩いている。見ていてとても陰鬱な気分になってしまう。
とっくに電力消費のピークを過ぎた夜間帯に、過剰な節電をすることにどれほど意味があるのだろう?発電量は急に変更できない、そして電力は貯蓄できないという事実を、どれほどの人が認識しているのだろう。

我々がニッポンと呼んでいるものは明確に形もないし、各々で抱くイメージは異なるだろう。が、僕の中ではニッポンというのはもう人生28年を共に歩んできた兄弟のようなものだという印象がある。今のニッポンの空気感は、賢くて金も持ってる頼りがいのあった兄貴が、冴えなくなって首をしょんぼりさせ、ファイティングポーズを解いて佇んでいるようなイメージだ。身体も大きくていじわるな他の国々と、堂々と渡り合っていた姿が嘘のようにも思える。思わず、贔屓のボクサーを応援するときのように、「向かっていけ!」とも言いたくなる。

このエントリのタイトルは『戦えニッポン』。じゃあ具体的に何がどうする事が『戦って』るってことなのか?

僕が会社の為に一生懸命働く事か?家族と精一杯遊び、孝行することか?学生が未来へ向けて勉強をする事か?被災地のためにボランティアに向かうことか?なけなしの小遣いを赤十字募金にまわす事か?

もちろんそれらも戦いと言える。日常を日常のまま生活する事は、非日常にあってこそいかに難しく、得難い事だったかと気づく。あの日常は、誰かが戦って得た物なのだという事実を、今まで僕は忘れていた。

しかし、もっと直截的な言葉でいうと、ここはやはり、ニッポンが『戦って』るって事を示し、日本国民を安堵させ奮い立たせるのは、日本政府の役割に他ならない。こう言うと不安や不満を政府のせいにするのはあまりに幼稚で陳腐だと逡巡してしまいそうになるが、しかしやはり政府以外に戦う人たちはいないのだと僕の思考は行き着いた。

政治は三流、経済一流。長い間日本はそう言われてきたが、今回の震災で経済とは国家インフラが整ってはじめて企業の生産活動が可能となり、潤っていくものだというのが良く分かった。二流だろうが三流だろうが、国家インフラを整えるのは当たり前のように国の、政府の役割と言える。経済を一流たらしめるには、せめて三流の政府でないといけない。四流、五流の政府では心もとない。

政府の原発をめぐる対応、東京電力の扱い方、国民への説明の仕方などを見るにつけ、優秀なはずの政治家がなぜかくも失態と無能を晒すのか。霞が関や有楽町を覆っている空気感の正体って一体なんなんだろうか。日本政府は、全世界に今の日本の『戦う力』を、とても明確に見せつけてしまった。それは、第二次世界大戦の時に指摘された、無能な幹部に優秀な小隊長、その旧帝国陸軍のイメージとダブって見えて仕方がない。

電力不足の漠然たる不安、頭の隅に追いやられてしまった環境問題、いずれ重い現実となってのしかかってくる復興費用、文句なく歴代No.2の大事故を起こした福島第一原発、そしてそこからとめどなく流れ出る放射性物質とその未知の脅威、少子高齢化による経済衰退、産業の空洞化による雇用の減退、止まらない頭脳流出、アジアの中での相対的地位の低下、周辺各国との領土問題、途切れることの無い余震の恐怖。

不安になるニュースの列挙にはいとまがないが、希望をもてるニュースはすぐに思い浮かばない。書いているうちに考えると浮かぶだろうと思っていたら、考えても考えても浮かばなかった。

ニッポンの『戦う力』はどこにあるのか、先行きに不安を覚えない人のほうが少ないだろう。

日本政府が三流ともつかないという仮説に、薄々、世界中が、少し遅れて日本中が、目を向け始めたように思う。これで、果たして、これから経済一流を維持する事など叶うのだろうか。僕が産まれるはるか前の、戦後の高度経済成長の記憶を胸に懐いたたくさんの高齢者を支えるため、バブルの斜陽と失われた10年をまざまざと味わった世代の日本人達は、また前を向けるのか。戦うニッポンを信じ続けられるのだろうか。

…などと、暗い通路を歩きながら考えた。