Thee Rang 跡地

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2月中旬 ある青年の日記より

 ンネルを抜けるとそこは雪国だった。夜の底が白くなった。と一人でつぶやきながら窓に目をやると、真っ黒なトンネルが低くうなるつまらない光景が続く。僕も彼女もひとしきり駅で買った海鮮弁当やパンを食べ終わり、お互いに2,3言交わしては退屈そうにまた窓に目をやった。上越新幹線に乗るのは初めてだったが、どことなく異国情緒を匂わせている車内が気に入って、横の席の人に目をやったり売店コーナーを冷やかしたりと落ち着きが無かったのを覚えている。駅から一歩車内に踏み込んだ瞬間に、内の作りが東海道新幹線とまったく違うことに驚いた。入り口をはいってすぐにらせん階段があり嬉しくなったがしかし手元の指定席券を見てみると残念ながら下の階の席のようで、帰りは上の階をとろう!と固く決心してシートに腰をかけた。
 しばらくするとトンネルが終わった。座席は残念ながら下の階だったが、遠くの景色はよく見える。遠くの山々は確かに枯れ木に雪化粧で賑わっており、頭のなかに冒頭の句が思い浮かび消えた。徐々に雪化粧はその厚みを増していき、目的地である越後湯沢に着いた頃にはすっかり周りは雪で覆われ、日光を浴びてまぶしく輝いていた。
 すぐに手配していた旅館に入り、人数を告げ部屋に通される。ロビーは古くさい調度品や民芸品らしき木引だし、さらには和書や旅行者がおいていったのであろう文庫本などが美しく配置されたラウンジがあり、上々の気分で仲居さんの説明に耳を傾けた。脇を見やると大きなガラスのはった窓の外に小さな池があり、白と赤色の美しい錦鯉がじっと池の中でたたずんでいるのを見た。「こんなに動かないのは珍しいですよ。昨日今日と冷え込みましたから」仲居さんの説明もろくに聞かず、寒い時期に寒い所を訪れる事ができた幸せを一人かみしめた。
 喜びも束の間、今回の旅行の目的の一つである峡谷と湖に通じる道が大雪により閉ざされている事を、その後ラウンジで女将が語っていた。どうやら冬季は毎年雪で道が埋もれてしまい、行き来は不可能になるらしい。そんな事も想像できなかった南国で育った先祖の血を恨んだが、すぐに女将がゲレンデの上の展望台に上ってご覧なさい、あっという間に時間が過ぎますよと続けたのでせっかくスキーの地に来たんだからそこにいこうか、と彼女と合意し、言葉遣いは丁寧だが運転が妙に荒っぽいお兄さんの運転するバンに乗ってロープーウェイ乗り場にたどり着いた。
 反省点は、普段着でゲレンデを上ると恥ずかしいという認識が甘かったこと、雪の深さをなめていた事くらいでロープーウェイを降りた時点での眺めは本当に素晴らしいものだった。二年前に行った長野県も素晴らしかったが、しかし天気に恵まれていた事もあり駅を中心に広がる旅館や商店街、民家を見渡せる丘ではあまりの雄大さにしばし言葉を失い、次にはカメラをもってはしゃぎ、そして雪を丸めて崖の下の木に向かって投げて遊んだ。もちろんカレーを食べたし、帰りもスキー客の中二人だけ普段着というロープーウェイからの景色を大いに楽しんだ。
明日はスキーやな。あぶなっかしい運転のバンの中で二人で声をそろえた。