Thee Rang 跡地

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富嶽百景 太宰治 (の思い出)

 日、どこかの映画館に映画を見に行き、いつも通り見終わってからトイレに向かう途中にわざとらしく並べられた次回映画の予告編ポスター?みたいなのを眺めていると、なんと「富嶽百景」の文字が。まさかと思って目をこらしてよく見てみるとやっぱり太宰治の例の短編の映画化らしい。公式サイト。僕はこの作品には実は思い出があって、同時に日本文学との出会いの作品でもある非常に意味の深い作品だ。

 14歳、中学2年生の僕は読書が大好きだった。周りであまり読書好きというのがいなかったので余計に得意がって本を読んでいた嫌いがあったがしかしそいった中でも楽しみながら色々な本を読んでいた。たしか京極夏彦綾辻行人森博嗣などの大御所ミステリー作家(当時は読むことそれ自体が難解だった 笑)と出会ったのもこの頃だったような気がする。

 僕には一人叔父が居て、早くに亡くなったのだが大変な読書家で秀才だった。彼の遺した全集が大量に祖父の家にあり、またその頃学校などの教科書で少しずつ日本の作家の名前が出てきた頃だったので、こいつらはどーいう本を書いているんだろうという好奇心、またクラスでは誰も読んだことのない本を読む優越感といったものに浸りながら叔父の書斎の本をつまんで読む機会があった。

 その頃好奇心の的になっていたのは「斜陽」。何かの漫画で太宰治の名作として挙げられていたシーンがあったりしたので真っ先に太宰治全集を手に取り、重厚な印象のカバーを外しその先頭に収められていた未読の名作と向き合った。まず第一の印象は、「すげー なんか描写がセピア色!」。既読の人はご存じだろうが冒頭のムードはセピア色の情景だった。読み進めていく内に全く難解な言い回しや描写についていけなくなった。まず、いったい今読んでいる文章の主語は誰?とか、ん?これって台詞?とか、そういう基本的な所から全くついていける気がしなかった。しかしそれでも、確か二日ほどかけて読了した記憶があるが内容など全く覚えていない。生まれて初めて読んだ日本文学の珠玉の名作は、セピア色の光景で、なんとなく悲しい物語として僕の頭にインプットされた。

 同じく名作として名高い「人間失格」。太宰治の作品を二つあげろと言われたら大多数の人はこの「人間失格」、それから「斜陽」が真っ先に上がるだろう。そしてこちらも"名作=ハラハラドキドキ、おもしろい!!"な概念が頭にあった少年な僕を打ちのめすに充分な作品だった。「斜陽」ほど文意を把握するのが難解では無かったがその分陰鬱な雰囲気の文章がよく頭に入ってきた。これは一日で読み終えられたと思うのだが読後感としては「絶望」。はっきりいって日本文学は僕のような幼稚な感性じゃ理解できないのかなあ、、、と少し悲しくなって家路についた覚えがある。

 ある日、また気になって太宰の全集を手にした事があった。「走れメロス」をしっかり読もうと思ったからだ。これなら僕でも簡単に読めるしストーリーも分かり易い。ご存じの通り非常に短い作品なのですぐに読み終わり、もう一度挑戦してみようと目次に戻って色々とみていたら「富嶽百景」というタイトルの作品があった。収録ページ数を眺めてみても短い作品と分かったのでトライしてみる事にして、ページを捲った。実際に、読むのに時間はかからなかった。もうあまり内容は覚えていないがすごくさわやかな印象を受けた覚えがある。どことなく諦観した作者と、それを取り巻く美しい景色や生命の美が鮮やかに脳裏に浮かんできて、太宰治という作家の真骨頂を見た気がした、と言っては大げさだがそれまで僕のような猿ガキには少々難解だった二作品の絶望的なまでの大きさをあまり感じさせず、僕が日本文学というものを大好きになった瞬間だった。そういう意味で、冒頭に書いたように思い入れのある作品なのであった。

 余談ではあるが同じ全集に収められていた(たぶん富嶽百景の次にきていた)「畜犬談」という短い作品も非常におもしろい。未読の方は是非一度目を通して頂きたい。僕の犬好きな感覚はおそらくこの物語に描かれた太宰?と犬の心情へのシンパシーの影響がかなりある、といっても言い過ぎでは無いように思う。

 さて、実は上述の名作をすべてweb上で閲覧できる仕組みがある。
 みなさんは「青空文庫」というサイトをご存じだろうか?著作権の切れた名作をデジタルデータにして、広く公開してより多くの人たちに文学に触れて貰おうという素晴らしい試みを実践されている所だ。はっきりいって圧巻の作品量である。これぞデジタル社会における歴史に残る一大プロジェクトだと思うのだが、どうも認知度は高くない。リンクは全てフリーだ。直リンクも問題ナシとただ尊敬するしかないようなサイトだ!!専用の閲覧ソフトで、実際の本を読むのと同じような型組で作品を読む事ができる。液晶モニタであればそんなに目も疲れないし、ローカルに落として保存できるのでお手軽。どうか皆さん、このサイトで文学の大河を体験して、そのうちひとしずくでも血や汗として人生を潤わせてください。(なんてまわりくど言い方!)以下に、本日出てきた作品についてのリンクをはっておきます。HTML形式で横書きなのではっきりいって読みにくいですがしかしそれでもしょーもないニュースサイトをダラダラ読むのに比べて2万倍は有意義です。こんなじめじめした梅雨の夜は、サッカーの応援でも明日に備えて早寝でもいいですが、一人悶々と文学的感傷に浸ってみるのもオススメです。

 青空文庫
(http://www.aozora.gr.jp/index.html)
 富嶽百景
(http://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/270_14914.html)
 斜陽
(http://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/1565_8559.html)
 人間失格
(http://www.aozora.gr.jp/guide/linkkijyunn.html)
 畜犬談
(http://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/246.html)
 走れメロス
(http://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/1567_14913.html)
 青空文庫へのリンク基準
(http://www.aozora.gr.jp/guide/linkkijyunn.html)

 こうやって文学作品について意見をかいて、すぐにその作品を読んで貰える事が出来るって、、はっきりいってテクノロジーの進歩って偉大やね。改めて感動。