Thee Rang 跡地

https://solaponz.hatenadiary.jp/ 跡地

誰もが一度は通る道

 恋をした事が無い人は、きっと恋をしたことがない人だ。
 当然僕も木の根から生まれてきた訳じゃないのでそういう経験はある。あるどころか、何回もある。タイトルには誰もが一度は通る道と書いたが大抵の人は一度なんてもんじゃないだろう。
 失恋のショックはその時でないとうまく言い表せないほど大きいものだ。もちろん片思いでの失恋や付き合ってからの失恋など、程度も種類も様々だが大抵はショックにうちひしがれるんじゃないだろうか。普段すごく元気な人やおもろい人も、さすがにこの瞬間だけはマジに落ち込む。
 失恋の治療法は一つしかないと相場は決まっている。時間だ。時間は全てを解決してくれるという。現に僕も失恋の痛手を一番癒してくれたのは時間だった。だが、時間が経過する間につらかったり寂しかったりするのはどうしようもない。そんなときに、僕が使った手をいくつか思い出してみた。

  • ひたすら寝る
  • 走りまくって汗を流す。限界まで走る
  • 夜中にツーリングに出かける
  • 峠を攻める
  • 友達と酒を飲む

 僕はいつだったか、数年前に結構つらい失恋を経験した。その時はバイクを手に入れた直後だったので、夜中によくツーリングに出かけて気分を紛らわせていた。僕が最初に買った中型バイクはレーサーレプリカタイプといって、サーキットを走るようなフルカウルのかっこいいやつだった。RGVガンマという名前だ。そして、250ccではあったが2ストだったので鬼のように早かった。スタートから時速100kmに到達するのに五秒程という素晴らしい加速だった記憶がある。
 その季節は冬だったが、それもまた寂寥感を盛り上げる感じだった。とりあえずは西宮から海岸線に平行にまっすぐ西に走る国道二号線(二国)にのり、六甲山を目指す。六甲山は、六甲のおいしい水や六甲牧場などでよく知られるメジャースポットだが、車やバイクの走り屋の集う峠スポットとしても良く知られている。失意の僕は国道二号線から阪急六甲のあるあたりを通り、神戸大学の横の道をかけあがり、峠をひたすら攻めていた。途中、掬星台という日本三大夜景の一つが見れるスポットを通る。そこで夜景を見ながら缶コーヒーをすすったあと、ふたたび山頂まで一気に駆け上がる。山頂で降りて少し散歩をして、すぐに来た道を戻る。
 山頂ではあまりゆっくりできない。なぜなら、カップルがたくさんいたり、同じように走りに来た人たちが結構いてあんまり落ち着かないからだ。
 山頂から2,3百メートルおりたあたりで、きれいな夜景が見えるところがある。そこは崖の上なのだがコンクリートで補強していて、僕はいつもそこでバイクを脇道にとめて、ガードレールを乗り越え腰をかける。目の前には、二つの山に挟まれた小さいながらも美しい神戸の夜景が見える。足の下は断崖だ。冷えた空気に耳を澄ますと、虫の鳴き声やガサガサと何かが動く音がきこえる。大きく息を吸い込んで、森のにおいと夜の冷気を味わう。そこでぼけーっっとしていると、なんとなく失恋の痛手もたいしたことではないように思えてきて、気持ちが楽になった。
 夜の森は、落ち着く。荒れた心も静かになって、いままでの人生を振り返ったりする。あの崖で過ごした時間は僕にとって特別な時間だった。
 ある時、ふと足音が聞こえて慌てて振り返ると、ウリ坊がこっちを見ていた事があった。ウリ坊というのはイノシシの子供だ。六甲山では結構イノシシに襲われる人もいると聞いたことがあったので一瞬びびってしまったが、人間様なんだからもっとどっしりと構えようとおもって、小さく口笛を吹いて呼び寄せようとした。ウリ坊はしばらくそこをうろちょろしていたが、どこからか母親のようなイノシシが現れ、走って森へ消えてしまった。なんか嬉しくなって、すぐにヘルメットをかぶって峠をおりた。
 国道二号線でまた缶コーヒーを買って、車のライトを見ながらすすっていると、家に帰ろうかな、という気持ちになってくる。そういう時は猛スピードで家に帰って、熱いシャワーをあびてすぐにベッドに入る。さっきまで失恋で悩んでいた事なんて忘れてぐっすりと眠る事ができた。
 他にも、神戸は海もすばらしくキレイなので海風に当たりにいったり、高速を使って京都までいって真っ暗な街を走ってどっか有名な寺の前に座ってぼけーっとしたりもしていた。落ち込んでいた時は結構毎日そういう風に夜中に走りに出て気分を紛らわせていた。
 今は単車がないのでツーリングには行けないが、ふと遠くまでバイクをふかして走りたいと思う夜がある。あー、近所にレンタバイクとかあればどんどん使うのになー。誰か作って下さい。