Thee Rang 跡地

https://solaponz.hatenadiary.jp/ 跡地

テロの脅威@Thailand

 9/11のエントリでテロについて書いたが、今現在日本に身近な国で最も深刻にテロの脅威に晒されている国は、タイだと思う。あまり日ごろ気にしない人が多いだろうが、意識してニュースをみているとタイでの爆弾テロのニュースはイラクのそれと同じくらい数が多いことに気づく。多くの見出しは、このように簡単にニュースを伝える。「タイ南部で爆弾テロ、死傷者数名」
 こんなに身近な国で頻繁にテロが起こっている割には、全然マスコミの話題に上ることはない。ちなみに、タイの首都バンコクは世界で二番目に日本人住居者が多い都市である。自衛隊が少しの期間滞在したイラクでは、テロの危険性がどうたらこうたらとすさまじい批判があったのに、こんなに日本人にかかわりのある都市の近くで頻繁にテロが起こっているのだから、特に戦後アジア外交に傾倒し公器を自称する大新聞社様等のメディア各社はもう少し話題にしてもいいんじゃないかなと思うのだが、どーなんだろーか。タイには興味ないんかな?
 タイでのテロのニュースを見ても、ほどんど詳細は書かれていない。断片的な事実が書かれているだけだ。例えば、タイ南部で爆弾テロ、一部のイスラム教徒によるもの、などだ。当然これだけでは読んでいる人は一体なぜタイ南部に住むイスラム教徒の一部がテロを起こすのか、全然判らないし知ろうとも思わないだろう。
 先日のテロでは、タイでもメジャーなショッピングセンターが標的となり、多数の外国人を含む死傷者を出す大惨事となった。こちらのニュースにはかなり長文で取り上げられているが、なぜテロが起こるのかという部分についての説明は

テロがエスカレートしている背景には、政府が南部のイスラム教徒らの不満に対処せず、力で抑え込む姿勢を変えないことへの反発があると地元の識者らは見ている。

という三行のみだ。これでは何のことかさっぱりわからない。
 しかしこちらのページには、詳しく事件の背景が説明されている。東京財団という財団のページで、非常に興味深い記事が満載の読み応えのあるサイトだ。

不安要素は、タイ独自のものだけではない。4月、10人のアルカーイダ・メンバーがミャンマー入りし、少なくとも50人のミャンマームスリムの若者を“自爆テロ要員”としてリクルートし、マレーシアに向けて出国させた。現在マレーシア北部クランタン州に潜伏し、訓練を受けているとみられる。

南部の過激派とアルカーイダの連繋はいまのところ考えられないが、南部問題で強圧的な対応を続けるタクシン政権、これと同盟関係にあり支援するアメリカ、イギリス、オーストラリアなどの関連施設、およびこれらの国の旅行者が集まる場所がアルカーイダ独自のターゲットとなる可能性は高い(それはタイ1国にとどまらないのではないか)。例えば、南部のリゾートのプーケット(地元住民の大半はマレー系ムスリム)、米軍兵士のナイトスポットのパタヤ、そしてアメリカのセキュリティーシステムを導入したスワンナプーム新国際空港(9月開港予定)などがある。

 今回の南奥部3県における同時爆破テロを機に、タイ政府とマレーシア政府の非難合戦が再び活発化している。マレーシアにとって南部過激派と国際的なテロ組織は、「迷惑」であると同時にロシア、中国と同様イスラームを敵視するタクシン政権を揺さぶる強力なカードでもある。
 政局の混乱とタクシンの独走は、すでにタイ経済にも影響が出始めている。日本にとって最も安定した生産現場タイに、再びアジア通貨危機以来の危機が訪れようとしている。タイの安定化のカギの一つをマレーシアが握っている。日本とマレーシアが手を組んで、タイそしてアジアの安定化に力を注ぐべきではないだろうか。

 さらに、外務省の海外安全ホームページにも詳しい情報が載っている。

(2)国内のイスラム系分離独立主義過激派の動向
 タイ南部においては、2001年末から2003年末まで軍前哨部隊や警察官等を対象とした襲撃事件が発生し、軍・警察関係者が殺害され、多数の武器類が強奪される事件が発生しました。2004年1月以降、国内のイスラム系分離独立主義過激派の活動が強まり、軍武器庫襲撃及び武器強奪事件、警察署襲撃事件、学校等への放火事件、空港、市場及び歓楽街等への爆弾テロ事件、教師、仏教徒及び公務員に対する暗殺事件等が続発し、同時に相当数の武器類が強奪されました。
 これらの事件については、その多くが未解決のままですが、南部タイにおいてパタニー王国の独立を標榜する国内のイスラム系分離独立主義過激派の犯行とされています。タイ政府は、南部問題解決に努力していますが、現在も、連日学校等への放火事件、爆弾テロ事件、教師、仏教徒及びタイ公務員等の暗殺事件等が続発しているほか、暗殺後の頸部切断事件等卑劣な事件も散発している状況であり、事件が治まる状況はみられません。また、政府側に協力したイスラム系住民に対する見せしめとみられる事件も発生しています。イスラム系分離独立主義過激派は、地元住民に対し、自らの存在意義と実行力を誇示し、デモンストレーション効果を狙っているとの見方もあります。
 このようにタイ最南部のテロ問題は、当分の間、問題が解決する状況はみられません。また、JI、アル・カーイダ等の国際テロ組織イスラム過激派との関係も懸念されることから、これら国内のイスラム系分離独立主義過激派の動向を今後とも注視する必要があります。

 日本が韓国、中国と関係が難しく、韓国もまた中国、日本と関係が難しく、おそらく他のあらゆる国が隣接国家との関係が難しくなっている事などの例外に漏れず、タイも隣接国家との関係には手を焼いている感がある。最も難しいのは地理的にも近く、宗教的にも異なるマレーシアとの関係のようだ。マレーシア人の多くはイスラム教徒で、タイ南部の住人にも非常にイスラム教徒が多い。上記HPに書かれているように、さまざまな摩擦が生まれるのは致し方ないことかもしれないが、政府、とくにタクシン首相はマスコミを通してもイスラム教徒へ強圧的な態度を示しており、問題解決の糸口すら見えないのが現状という厳しい状況だ。解決の鍵を握ると書かれているマレーシア政府は、上記引用箇所にあるようにこのテロリストの存在を外交カードとして使っているという説もある。もしそれが事実だとすれば、日本は多くの日本人が住み、たくさんの日本製品が生産されているタイの安全確保のためにマレーシア政府と交渉すべきだと思うし、東京財団のhpにもそう書かれている。しかし、タイ政府とマレーシア政府の軋轢も相当なもので、インドネシア政府が日本政府と北朝鮮政府の安全保障交渉をとりまとめることがおそらく不可能なのと同様に、日本政府として打つ手というのは非常に限られているだろう。やはり、テロリストの動向を知るには二国のやりとりを注視していくしか方法は無い。
  数十箇所の銀行で爆弾が同時に爆発したり、学校で授業を行っているクラスに男が乱入し教師を射殺したりと信じられないような事件も相次いでいる。しかしスーパーや銀行で頻発する大規模同時爆破テロなどは、明らかに組織だった犯行で訓練されたテロリストによる犯行だ。そして、テロの現場はどんどん北上しており、バンコクに届くようなことになればタイの国際的な信用は大きく損なわれ、また人口の密集する場所では南部とは比べ物にならないほどの死傷者が出るだろう。
 身近なテロリズムに対して、日本のマスコミが灯台下暗しでは頼りなさ過ぎる。東アジア外交の重要性を説く政治家さんたちにも、ぜひそういった大局的な政策見通しをテレビや新聞などで視聴者や読者に問題提起していってほしいと思う。