Thee Rang 跡地

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村上もとかという漫画家

 校の頃、とある漫画にハマった事がある。「龍 〜RON〜」という漫画だ。舞台は昭和初期の京都にはじまり、第二次世界大戦ごろまでのある青年の人生と、東北の貧農出で最終的には満州で映画監督となる女性を追ったお話で、壮大なスケールと感動的なストーリー、色々なところに出てくる様々な世界観やものの見方の多様性、魅力的な脇役達にすっかりとりこになってしまった。僕が大学にはいるまで、おそらく30巻ほどでたと思うがこれを全て集めては読みふけっていた。それまで主に少年漫画を読んできた僕にとって、青年漫画の、時代背景とか社会背景を知らないとあまり分からないような作品のおもしろさは衝撃的だった。今思えば、高校二年になったということもあり歴史教育などを一通り受け終わったあとだったというのもRONにはまってしまう切っ掛けとなったのかもしれない。作者は村上もとかという人で、この人の漫画は実におもしろい。
 現在、「仁 〜JIN〜」という漫画を連載しているのだが、今回は医学モノで斬新だった。同じような時期に、「Dr.コトー診療所」や「ブラックジャックによろしく」、「医龍」などの名作が花開いた医学モノだったが、この「仁」が一味違うところは、舞台が江戸時代という事だ。現代の名医がなぜか江戸時代にタイムスリップしてしまい幕末の日本で、様々な歴史上の人物を交えながらその時代に全く新しい医学の風をふきこむ様は見ていて痛快だし、何より凄いのは江戸をリアルに感じることができる漫画という事だ。
 RONでもそうだったが、村上もとか氏の漫画は背景や服装、小道具にいたるまで非常に細かく描写されており、それは多大な取材に裏打ちされている。江戸時代を舞台とした漫画は数あるだろうが、ここまでリアルに江戸の庶民の暮らしを感じさせられる漫画というのは珍しい。また、勝海舟坂本竜馬などの人物も作者独自の味をうまくにじませた性格となっており、主人公以上にその色濃いキャラを発揮している。
 氏の最も有名な作品は六三四の剣という剣道漫画でもあることから、氏は剣道に多大な情熱を抱いている事が伺える。RONでは主人公の青年は剣道家だったし、JINでも主人公が江戸時代の実戦剣法に面くらうという話が出てきて、それらは実にいきいきと描かれている。
 氏の作品は、人間ドラマであり社会ドラマでもある。一生のうち人が体験できる経験や抱くことのある感情というのは限られたものだが、文学であれ観劇であれ音楽であれ漫画であれ、こういう優れた作品に触れることによりその経験や感情を何倍も味わい心を豊かにすることが可能だ。そういう点でいうと僕なぞはまだまだガキの部類に入ってしまうのだが、しかし村上もとか氏の作品に学んだことは多くある。かなりオススメの作家ということで、覚えておいても損はないと断言してもいいように思う。