Thee Rang 跡地

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タクシン元首相の高笑い

 こ数ヶ月、タイのバーツがずっと値上がりしていたのをご存知だろうか。僕が最後にタイに行ったのが7月15日でバーツはおよそ1$=38Bというレートだった。それから徐々に上がってきてつい数日前までは1$=35.2Bとかなりの高水準で推移していた。ところが、昨日の新聞で目にした人も多いだろうがタイの株価は暴落、バーツも暴落という由々しき事態が発生してしまった。
 原因は、タイの中央銀行であるタイ中央銀行が発表した為替投機規制法案のためで、これは為替取引や外貨資本をかなり強く規制する法案だ。例えば外国人が500万バーツ(約1500万円)のマンションを買うときに、タイにその30パーセントの500万円が取り上げられる(正確に言うと、一時預かりという形で一年間強制的に預けさせられる。一年以内にそのマンションを売ると、返還額の中からさらにその1/3の150万円が没収されてしまう!)というような法律で、当然こんなものは海外投資家に嫌われてタイの証券市場はタイ証券取引所(SET)が取引を一時停止するほどの大幅な下げに見舞われてしまった。バーツも一時大きく下げたが今日の時点では僕がタイに行った頃と同じ水準まで回復しており、株価も昨日の下げ幅の9割程度の上げでひとまず最悪の事態は回避した模様だ。誰の頭にも、97年のバーツの暴落とその後のアジア通貨危機が頭をよぎったことだろう。
 タイの経済は、現在大きく外貨に依存しているといっていい。シンガポールや日本、華僑の経済力はタイ経済に大きな影響を与えており、タイ南部のリゾートビーチや無人島などはいくつも切り売りされシンガポールの企業の投機対象となったり、事実上海外の金持ちの個人資産になったりしている。外貨の影響力があまりに強くなる事への危機感は判るが、締め上げればいいというわけでも無く独自の産業技術や金融基盤も目立たないので、政局の不安定さも手伝って常にタイは揺れている。今回の証券市場の大暴落は、97年のアジア通貨危機のバーツ暴落を思い出させる嫌な出来事だった。
 僕は、タイは美しい山に美しい海、豊かな食材と大河の恩恵に恵まれている地上で最も豊かな地域だと思っている。『神様は、昔世界中に良いものを配ろうとした際、つまづいてタイの上にその多くを落としてしまった』という話があるが、厳しい冬に常に飢餓や不作の恐怖と隣り合って生きてきた日本とは地理的な条件はあまりに違いすぎる国だ。ただし神様の話にはオチがあって、うまくできていると感心してしまうそのオチは、『これでは不公平だと感じた神様はタイ人を怠け者にしてしまった』というものだ。そのためには「マイペンライ*1という言葉を教えるだけだっただろうから、さぞかし簡単だった事だろう。
 資本主義を否定するつもりなど毛頭無いが、かつて日本では金を持つことは卑しいこととされた。江戸時代末期に日本に来た欧米人は、武士は貧しい癖に尊敬されていると驚いたという。タイも、あるがままに、のんびりと生きる事を重要だと考えている人が多いように思う。この二つの価値観は大変貴重なものだと考えているが、これらがFLAT化する世界のなかで資本競争に巻き込まれ、国民の価値観も生活も揺るがされるとなるとなにか無力感を感じてしまう。
 かつて、彼らの価値感と真っ向から対立し、汚職や強権政治の限りを尽くし果ては武力により追放された、ビジネス界、政界ともにトップにのし上がったタイのCEOと言われた首相がいた。今回の混乱は彼を追放した勇気の代償というにはあまりにも大きな代償だっただろうが、これからタイ経済、タイ経済をとりまく資本の動きがどうなるかというのは日本のみならず東南アジア全体の大きな興味の対象となっていくに違いない。

*1:気にしなさんな|気にしないよ|どういたしまして みたいな意味。悪く言うと、知るもんか|どーでもいーよ みたいなニュアンスに解釈できないこともない