Thee Rang 跡地

https://solaponz.hatenadiary.jp/ 跡地

岸壁

元には、ただザイルのきしむ音と、吹き抜ける風の音だけががせわしなく行き来する。
 地上およそ50m、下を見れば目のくらむような絶壁の下に音もなく小川が流れているが静けさに満ちているかのように見えるその川は、その実飲み込まれるようにごうごうと音を立てて流れる激流である。上に目をやると、白い雲間から時折太陽が照って気持ちよい。見通しは良く、この辺りでは落石もなさそうなので少しヘルメットを首にかけ、湿った髪を風に晒した。砂漠の風は、一瞬で汗を奪い去り、かわりに細かい砂が頭の中にさらさらと入り込むのを感じた。
 予定しているタイムより大幅に遅れ、岩に取り付いた。だいぶ急なペースで登ってきたがまだまだ頂上は見えない。6mほど真上のやっかいそうなスラブをどう攻略しようかとしばらく割れ目とにらめっこをするが、体力がある内に横に10m程伸びるゆるやかなスロープから迂回することにした。
 指先に力を込め、適度に力を抜いた身体を持ち上げる。このあたりは岩の内側が湿っているので指先にひやりと心地良いが、一瞬でも気を緩めるとすぐにズルッと指が滑り、大変危険だ。が、この絶景はどうだ。モニュメントバレーの遙か遠く、地平線と空の境界が鮮やかで本当に美しい。いま取り付いている岩も、小さな穴や突起を通して指先の力を調整することで、自由自在にその表情を読み取る事ができる。筋肉の隅々で、彼らと会話しながら着実に、数十センチずつ、登っていく。
 指先に感じる数千万年、数億年の時を経たであろうかつての川底の、命豊かな水しぶきをまだ記憶しているかのようなみずみずしさに、僕ははっきり、地球と僕とは同じ生き物だったのと確信した。
 トレースの途中、そういう事を考えてハイになったのでちらっと上を見てみた。見えた。頂上だ。時計を見ると、もう夕方もまもなくだ。今夜はこの上にテントをはり、幾千、幾万の星空のすぐ下で眠る事にしよう。
 もう、ノドがカラカラだ。
 そういえば、背中のバックパックに、上手い具合に少しのバーボンとアイスボックスが残っている。それを思い出した僕は、先ほどまでの感傷をふっきり頂上へ向かってぐんぐんペースを上げるのだった。了。(続かない)




 というわけで、来月ロッククライミングの講習に行くことになった。目標は、10年後↑のような事を書けるくらいまで岩を楽しめるオッサンになる事!しっかり基本を学んで感覚を身体に覚えさせてみる事。何事も初めが肝心、頑張るぞー!