Thee Rang 跡地

https://solaponz.hatenadiary.jp/ 跡地

”The World Is Flat” 読了

 かった。。。読み始めたのはいつだったかもう忘れてしまったくらい長かった。トーマス・フリードマンの話題作「The World Is Flat(邦題:フラット化する世界)」を読了した。全て英語の600ページに渡るボリュームは難攻したが不落ではない事が分かった。以前も行ったが、英語の本を読む難しさというのは単純に単語が分からないだとか熟語を覚えていないだとか、という事ではない。ページを左からめくるということでもなく、目を縦ではなく横に動かして読んでいくという事でもない。

難しい事
 一番難しい事は、記述されている言葉言葉の意味や感覚を、自らの体験から掘り出して心にじわっと浸透させられないことだ。言霊という言葉があるが、言葉には不思議な力がある。言葉にはパワーがある(あやしい巨大新聞社の薄っぺらいキャッチコピーではなく。)。たとえば、「俺は、おまえを信じてる。」と、面と向かって誰かに言われるとあなたはどう思うだろうか。その言葉はおそらく心に響き、行動にまで影響を及ぼす事にもなるかもしれない。他にも、「名は体を表す」「地位は人を作る」というように、ある特定の言葉に囲まれると人間は自ずと影響を受けざるを得ないものだ。
 本を読み進めていく中で、単語単語にいちいちイメージをふくらませながら進めていくのは大変ゆっくりで、そして疲れるものだ。なにせ、初めて出会う単語や熟語、言い回しに当たるたびにそこでしばらく文脈をみて、自分の頭に現実にそういうシーンや感情を再現してみる手間がある。おそらく僕は、本を読んでいる間は通勤時間をフルで利用しても一日3ページ進めるかどうかというペースだったと思う。仕事が終わって電車にのり、さあ読書タイム!!と張り切って読んでいっても、気が付くと目を閉じて眠っていたという事も何度もあった。頭を使いながら読むのは、本当に根気と根性がいる事だった。
読書感想文
 肝心の内容としては、これは僕が書くよりもすばらしいレビューというのがたくさんあるのであまりそういう偉そうな事はできないのだが、基本的にはIT革命(あちらさんではdot com bubbleというらしいが)以来、世界はどういう風に変わってきたかというのを9/11のアメリカでのテロや、その逆の「11/9(何の日なのかは是非本で。)」を通して描くというスタイルで、基本的には事実やインタビューを元にして書かれている。後半には作者の価値観や考え方がずらずらっと出てくるのだが、前半は経済・ビジネス、政治的な客観的展開に退屈な印象を受けた。だが基本的に、インドがいかにのりにのっているかというような内容。
 次第に物語はテロや社会哲学の話になっていき、ムスリムに関わる記述に熱がこもる。そのあたりからようやく読んでいて感情が動くようになって、(英語の記述に慣れてきたというのもあり)スムーズに進んだ。印象としては、0〜100ページを全部は読めないだろうとあきらめながらよんで、101〜250ページくらいまでは惰性で読みすすんでいくうちに止めるに止められなくなり、251〜450ページで筆者の言いたいところが分かるようになってきて残りは一気にまとめて読む感じだった。
構成・展開
 次第に気づいていくのだが、英語(もしくは、アメリカ人?)独特の言い回し、というか、チャプターの構成の仕方がある。自分なりの真実、結論をばーっと出してからインタビューや事実からそれを立証していき、ときには大げさすぎると思われるような表現を織り交ぜながらそれによってチャプターを印象づけようとする。それで、さらに一段上のレベルでそれぞれのチャプターが同じような役割を振る舞っている。さすがに新聞のコラムニストだけあってそういう展開は非常に上手く、読んでいておもしろいものだった。途中、多少愛国的になりすぎるのは致し方ないとしても、理論と感情両面から主張を構成する方法はたくさんの人の心に訴えたんだろうなー。

 とりあえず、半年?くらい一冊の本を読み続けたのは初めての体験である種の達成感を覚えた。もちろんちょくちょく他の本や以前何度も読んだ本をつまみ読みしたが、基本的にカバンの中には常にこの本を入れていた。この達成感が、来月のTOEICにもいい影響を及ぼせば、、、いいなー。



オマケとしての僕の考え
 世界は平坦化しているか。当の本人のはずのマスコミや芸能人が格差社会が顕著になってきている誰のせいだ首相のせいだ与党のせいだとわめきたてる厚顔ぶりを横目で見ながら何度も考えた。確かに技術は進歩したし、ビジネスというフィールドではアメリカもインドもおなじ面の上にあると言っていい。時差は確かに存在するが、時差があるからこそ協業のメリットが活きてくる。たとえばアメリカの多くの家庭で電化製品が使われる、夜間から深夜にかけてでも、メーカーはインドにコールセンターを置けばいつでも顧客からのコールに耳を傾ける事ができる、という具合に。が、アメリカの主婦が深夜、インドのコールセンターの従業員とインドの天気について雑談をしている間にも、アメリカの軍隊は中東でもがくように戦争を続けている。本では、これもフラット化の結果の導いたものだとする(テロもフラット化してしまった!)のは、非常に良い見方だ。いつの世にも正義と悪がいて、どっちかが強くなったらもう一方も同じように強くなる、というのは少年の発想だが世界は今事実その通りに進行していっている。
 僕は社会人で、利潤を追求するタイプの組織で働いている。
 平坦化した世界の恩恵が見えやすいポジションにいるのは間違いない。
 それでも、アメリカ人である筆者の描くフラット化という概念は少し怖いもののように思える。300年間鎖国を貫いた国民性が僕の性根にも根付いているのだろうか?アメリカ人は自らの考え方を世界での正義と過信するという批判がよくあるし、筆者自身もそれを本の中で記しているがそういった強引さ、良く言えばリーダーシップの概念はおそらく、僕が生きてきた限り、大多数の日本人にとってあまり心地のいいものではないだろう。この本の主題を理解するには、強引で印象的なタイトルで立ち止まるのではなく、しっかり中に分け入ってみることが必要となる。
 ビジネスでも戦争でもテロでも、たしかにWEB的な要素(集合地やらボトムアップやら即応性とかそんな部分)の利便性が色々な要素をある程度のレベルまで一気に押し上げたのは、間違いなく事実だ。だが僕は、筆者が押し上げられなかった部分についてもremarkしている部分がすごいと思う。なぜならば、そういったバランス感覚は本当に雑多で広範な体験や知聞を必要とするからだ。
 世界を飛び回って色々なエグゼクティブやキーパーソンにインタビューして思考を構成するのって、物を書く人間からすれば最高のゼイタクに思えてしまえてうらやましすぎる。そういう立場を最大限に活用して記したこの本は、間違いなくあと20年後くらいに過去の名作として語られる本になるだろう。
 とりあえずおすすめ。