Thee Rang 跡地

https://solaponz.hatenadiary.jp/ 跡地

何のために走るのか

 員電車に乗っていると、目的地についた瞬間に走り出す人がたまにある。僕は常々、いったい彼らは何の為に駆けているのかと不思議に考えている。
 つり革につかまって本を読みながら横目で見ていると、彼らは目的地の大分前から席を立って移動し、開く側のドアにピタッと張り付く。まだ駅も見えてないのにドアが開くのをじーーっと待って、ドアが開いたと思いきやドアに足がつっかかるくらいの勢いで駆けていく。
 おそらく、誰もがそういう光景を目にしたことがあると思う。
 僕も毎朝、目にしている。ダッシュしているのはだいたい決まった人で顔も覚えてしまった。まさか毎日毎日寝坊に遅刻をしているというわけでもないだろう。
 そんなとき、僕はいつもいつも笑ってしまう。なんで他の人があれを見て笑わないのかが不思議なくらいだ。誰にとっても公衆のまさに面前で、かばんも髪も振り乱し大股をひろげて一目散に走る様は僕のような粗野な人間からみてもあまりかっこいいものだとは思えない
 そんな彼らの目的地はおそらく階段で、一秒でも早く階段にたどり着いて、人のいない階段をスムーズに上りたいという事なのだろう。確かに、朝の通勤時間帯に電車から降りて駅の階段を上る際は、人ごみの中をごく小さい歩幅で進んでいかなければならない。その上周りの人に蹴られたりかばんをぶつけられたりするので、大変いやなものだ。走り出したくなる気持ちもわからないでもない。が、階段なんてどんなに人が混み合っていても、先が詰まっていない限り上るのに数分とかからない。乗り継ぎがシビアで走らなければ間に合わないんだという向きもあるのだろうが、それなら一本早い電車でくれば何の問題もないやろってなる。電車の中で手持ち無沙汰なんだったら、文庫を一冊持ち込めばいいだけの話だ。活字が嫌いならニンテンドーでもやっていればいい。
 彼らは一心不乱に走る。階段に誰よりも早く先に着き、誰よりも早くあがろうとする。何かに追われているように、周りを押しのけて疾駆する。大都市東京の朝ともなると当然大変に混雑しているので、傍からするとそんなやからは大迷惑以外の何者でもない。
 何の為に、彼らは走る?