Thee Rang 跡地

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ミステリとりどり

 父がミステリ好きなのもあって寝室にはミステリが積まれていたので、時たまそれを拝借しては読んでいた。一番最初にミステリを読んだのは確か中学三年の頃で、島田荘司の作品だった記憶がある。それまでミヒャエル・エンデのファンタジーや冒険物のライトノベル、姉貴の読んでいた吉本ばなな山田詠美などの小説しか読んだことのなかった僕は、初めて読むミステリのエログロな描写にショックを受けた。御手洗潔という探偵が出てきて、活躍するのは良かったもののこういう小説もあるんだなーと思った程度だった。
 あるとき、親の寝室にざーっと積まれてある本を眺めてみると、ものすごく分厚いのが目に留まるので必然的に手にとって見る。京極夏彦という作者名*1がかっこいいと思ったので開いてみると、分厚いくせに字も多いので驚く。字が多いと余計に呼んでやろうという気になってくるので、とりあえずそれを部屋に持ち帰って読み進める内に、あまりのおもしろさにすっかりハマってしまった。
 その作品は登場する人物がいきいきとしており、しかも人それぞれいい味を出していてセリフを読むのが楽しい。しかも、舞台が昭和初期という事もあり世界観が幻想的で、グログロな殺人事件も謎を引いていて引き込まれる。劇的な展開も魅力的で、死ぬほど分厚い癖にどんどん読み進む事ができた。
 そのとき読んだのは『魍魎の匣』という本で、京極夏彦のいわゆる「京極堂シリーズ」の第二作という事が判明した。当然シリーズのほかの作品も気になる訳で、高校に入る直前の春休みで時間をもてあましていたという事もあり、第一作の『姑獲鳥の夏』、第三作の『狂骨の夢』、第四作の『鉄鼠の檻』、六作目の『絡新婦の理』と立て続けに読みふけった。高1くらいのときに出た『塗仏の宴 宴の支度』と『塗仏の宴 宴の始末』は高校の教室に持ち込んだりして読んだ。
 『塗仏の宴 宴の支度』は確か金曜日か土曜日に発売され、その週末で読了した。それを自称ミステリファンの当時の国語教師に自慢しようとしたら、そんなの常識でしょあたしももう読んだわよとか言われ、ミステリファンの底力を思い知った。尤も、その教師が僕の及びもしないミステリフリークだと分かるのに、そんなに時間はかからなかったが。。
 その後も綾辻行人森博嗣など、ミステリの大御所といわれる人たちの本をどんどんと読んだ。しかしやっぱり京極がおもしろく、クラス内でもじわじわと広めていって何人かのミステリ好きをつくり、何度か読み返したりしていた。
 そういえば、ミステリファン以外にも京極はものすごく人気が出たという記憶がある。今軽く調べたらラジオドラマにもなっているし、映画にもなっているようだ。京極作品を模したバンドまでいたという事だった。こんな平易な長文BLOGを読んでいる方だったら、目を通されたこともあるのかもしれない。
 僕が一番好きなのは『魍魎の匣』もしくは『絡新婦の理』で、ストーリーがきれいに収束する中でも木場修という刑事や榎木津という探偵の活躍が光る。そういうキャラものとしておもしろいのだが一作品ごとにいくつか掘り下げたテーマというのがあり、『狂骨の夢』はフロイト哲学について専門書のごとき詳細な説明があるし、『鉄鼠の檻』では十牛図がページ間に挿絵として挿入され、禅の哲学から仏教の歴史まで滔々と、何十ページに渡ってわかりやすく解説される。京極シリーズを読む人たちは、本筋のほかにこういった脱線小噺が楽しみで読んでいるという部分もあるんだろう。『塗仏の宴 宴の支度』では確か、河童やぬらりひょんなどの妖怪について各地の伝承を検証しながら、京極夏彦が登場人物の口を借りて語り尽くす場面もあった。非常におもしろかった。
 大学に入学して2年もたつとすっかりミステリを読まなくなったが、宮部みゆきなどは非常に人気だったので一度は読んで見たいと思っていたし、僕の大学の後輩が高校で森博嗣のご子息と同じ部活動だったという事もあり、森作品ももっと読んで見たい。唯一の懸念は、読み始めるととまらないので平日や日曜日は無理、という事なのだが。
 よく干した布団を敷いたベッドの上で、あごの下に枕をしいて分厚いミステリをめくる。それが真夏で冷房でも効いていれば尚良い。このけだるい時間は、何物にも変え難い幸せだった。マジおすすめ。

*1:この夏彦というのは山本夏彦氏の名から取ったという話を聞いた事がある気がする。氏の作品も大変おもしろく、前回amazonで初めて購入したが次回はまとめて購入するのが決定している作家の一人だ。