Thee Rang 跡地

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捨てる力

 学生時代、多くの友人がアパートで一人暮らしをしていた。僕も香川から兵庫の西宮に出て一人暮らしをしていたのだが、うちは六畳のちいさな部屋で、日当たりの良くない部屋だった。日が当たるのは、朝の1,2時間のみ。季節によってはほぼ全く日が当たらない所もあった。そんな中でもイギリスでは日当たりが悪いほど良い物件とされる、と強引に納得し、それなりに快適な毎日を送っていた。
 が、色々な買い物を重ねていくうちに次第に家が手狭になり、汚れていった。従来整理整頓があまり得意でなかった僕の部屋はあっというまに物や本であふれ、足の踏み場もなくなるようになった。大掃除は半年に一回ほど、それでも掃除の後一週間もするとまた部屋は荒れ、元通りになるのだった。
 「今までお邪魔した一人暮らしの奴の家の中で、一番汚いわ」というコメントを頂いたのも一度や二度ではない。パソコンパーツショップでのアルバイトにどっぷり漬かっていた僕の部屋には、様々なパーツが山のようにたまっていった。本を買ったら読み捨てて、服を買ったら着捨てて、暴虐の限りを尽くした挙句、一度部屋を見に来た母が実家に戻ってからもセキが暫く止まらなくなるほど劣悪な環境(と書くとまるで環境のせいのように思えるが)に暮らしていた事になる。
 なので、キレイな部屋には人一倍強い憧れを持っているのだが、キレイな部屋のために色々と調べているうちに一つの事が判明した。どうやらキレイな部屋を保てるかどうか、は、捨てる力があるかどうか、らしい。いかにいらないものを捨てるか。なるほど、確かに見回してみると使ってるような使ってないようなものばかりで、あってもなくても困らないものがたくさんある事に気付いた。
 しかし、捨てるとなると一苦労も二苦労もある。一回、ベッドを捨てようとしたときはひどかった。コンビニで粗大ごみを廃棄するチケットを買い、部屋からごみ置き場に延々とベッドの部品を運んでいった。真夏だったので汗が吹き出て苦しかった覚えがある。社会人になって本棚を一つ処分しようとしたときも、めんどくさいので業者に引き取りにきてもらったが、8000円もとられた。どーせりサイクル品にして売るんだろう、いい商売だ。
 結局兵庫から東京への引っ越しのときにたくさんのものを捨てる事になってしまったが、今ではあまりものを増やさないように注意している。が、やはりそれでも捨てられないものというのはたまっていく。捨てるという事は、言葉や行為自体は後ろ向きでネガティブなイメージだが、実は非常に前向きな姿勢と行動を求められるものだ。何かを買う時よりも、それを捨てる時のほうがはるかにエネルギーがかかる。世の男女が、付き合うときよりも別れるときのほうが10倍疲れるとぼやくのと同じことで、ネガティブな目的に向かってポジティブに動かなければならないのでこの矛盾が疲れるのだ。捨てる力を手に入れるには、その矛盾を乗り越えて初めて可能になる。ネガティブに向かってポジティブに考える能力といえる。僕の楽天的性格では、いかんせん得難いものだと思う。