Thee Rang 跡地

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濡れ手にTOEIC受験料

 TOEICを初めて知ったのは高校二年生の時で、友人が受けたというのを聞いたのが切掛けだった。姉がTOEFLをうけていたのでそれに似たようなモノなのかなーと思っていたが、大学受験に全く関係しないので興味も持たなかった。

おそらく他の多くの大学生と同じように、初めてTOEICを受けたのは就職活動をそろそろ意識し始めた、大学二回生の頃だった。

TOEIC IPというものがあり、企業や団体がある程度のカネを収めれば、受験者は格安で過去問試験を受験する事ができる。僕が初めて触れたTOEICは、大学が主催するこのTOEIC IPテストだったと思うのだが、古ぼけた教室ですし詰めにされ、訳の分からない英語しか書かれていない問題文を恐る恐る開いたのをとても強く記憶している。試験自体はリスニングは途中から何を言ってんのかわからんし、試験時間は長いし、しかし長文問題の途中で全然時間なくなるしで、散々だった。試験が終わり、偶然目があった友人と会話したとき、ふたりとも問題用紙に日本語が全く無かった、というのに驚いたというしょーもない話をしていた。

結果は420点とかそれくらいだったように思う。高校の頃の英語力にはかなり自身が合った分、かなりショックな数字だった。しかし、ショックを受けたからと言ってリスニング強化を始めるでもなく、特に何もしないでおいた結果、いざ就職活動となったときに再度TOEICを受験した際、たった50点しか伸びてなかったのも当然といえば当然だった。

社会人になってから、会社が外資系である事や友人関係でコミュニケーションを取るのに英語が必須となった事などから、英語を身につける事ができたのは幸いだった。入社した頃のレベルがレベルなので、僕は英語には苦労した方だと思う。TOEICがの点数向上のために、とか言い出すとそれだけで一冊の本が書けるくらい思うところがあるのでここでは省くが、目標点数を掲げ、それを必ず達成する方法を取り続ける事で今は一応のレベルを示す点数を取れていると思う。本当はあと+100点くらいあればいいのだろうが、特に必要性を感じていないので今はTOEICを卒業している状態だ。

ちなみに僕の会社では、海外への短期出張に640点、長期出張および主任昇格に730点が求められる。両方とも目標点数としてセットし、夢に見るまでに渇望して突破したときは小躍りして喜んだ事のある僕としては、これらの点数は一つの目安として、まあ妥当ではないかなあと思う。

TOEICの抱える闇
ところで、最近TOEICに関してこういう記事を読んだ。2年ほど前のDocumentだ。

TOEIC: Where does the money go?
http://search.japantimes.co.jp/cgi-bin/fl20090818zg.html

内容としては、TOEICを主催するthe Institute for International Business Communication(IIBC)がものすごい儲けてて(年間80〜90億円の売上)、一体何に使ってるのか分からない!って感じの内容。個人名を出してかなり厳しめの筆致が印象的。IIBCが事業委託しているというInternational Communications School(ICS)についても紹介されていて、IIBCとICSとの関係について以下の様に書いている。

ICS is a company with close ties to the IIBC. ICS and the IIBC have their offices in the same building. Stepping out of the elevator and into their shared 9th-floor lobby, ICS' door is to the left of the security guard and the IIBC's door is to his right.

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The IIBC and ICS also share personnel. The new chairman of the IIBC's board of directors, Takayuki Murofushi, was a member of ICS' board of directors until 2008, when he replaced the retiring 89-year-old Sadayoshi Sakata at the IIBC.

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IIBC Chairman Yaeji Watanabe has had a long relationship with Murofushi's mother. Watanabe's blog and memoirs discuss working with Jukan Murofushi to increase the popularity of Chinese poetry.

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よく調べたなー・・・と感心してたが、1年だか2年前にあったTOEIC値下げってこーいうどす黒い背景があったのか?とも思う。

あんまりこれまでよく知らなかったのだけども、TOEICの絶対的な安定感と莫大な収入は経産省管轄ってことで、こういう仕組みを作った官僚の狡賢さにただただ敬服するばかりなり。IIBCのトップのW氏などは老いて尚盛んというべきか、唸るような金を転がしてるんだろうなあ。さすが、日本の知の終着点。

IIBCのぼろ儲けは悪か?
という小見出しを付けたからには、このケースって、独裁者が独裁体制を作って民衆から徴収した莫大な金を闇へ葬り去る…って構図と同じような種類の悪では無いんじゃない?という事を言いたいというのが伝わったろうか。
上記の記事の指摘が全て正しく的を射た物として、この事実を明るみにする事は非常に重要と思うが、僕個人としてはIIBC幹部に対して、悪いやっちゃなーという感じはあんまりない

確かにTOEICはもはや日本人の英語力を計るデファクトスタンダードとして、英検をはるか彼方に追いやった。日本で仕事をするにも、大学生をするにも、避けては通れない試験になってしまった。しかも、安くない。一回6000円だかそんくらいの金は、大学生にとっても、もちろん社会人にとっても決して小さな額ではない(あまつさえ休日を潰して6000円を支払うのだから、とても痛い)。皆が皆、結構がんばってわざわざTOEICを受験せざるを得ない。

でもこれって、IIBC(もしくはICS?)の努力の成果だと言えると思うのだがどうだろう。学校団体や企業を対象とした狡猾なマーケティング戦略をとり、ネットとの親和性を発展させ戦略的に顧客を囲い、そう簡単に抜けられないシステムを作り上げる。そして受験者同士で競争させ、新しい試験を開発したりして、リピーターを増加させる

これって、ベンチャーが事業を起こして顧客を獲得するプロセスと大元では同じなんではないか。ここについて批判の余地があるとすれば、官僚組織によるものという事だと思うが、国民の英語力を(そもそも英語力という言葉も謎だが)均一に数値化して、評価するというのは結構イノベイティブな取り組みだと僕は思う。んで、こういう国民的な取り組みってのは、なんだかんだでやっぱ国が行うのが一番効率がいいし、国民も混乱しないですむ
仮に経産省が、きれいなジャイアンみたいになって「これからは汎用的な英語の能力をはかる検定が必要だけど、その権益を僕たちだけで牛耳るのは良くないよ!天下りなんてさせないよ。どうぞ民間で色々な会社で競いあって、いいものを作ってくださいね」とかって言い出しても、多くの会社がバラバラに制度を乱立させて、国民はどれを受ければ英語の力を表す事になるのかよく分からず、大学や企業も評価ができず、右往左往して英語力の底上げが十年くらい遅れる事態になってたのではなかろうか。

最も槍玉にあげられる不徳として、収益使途の不透明さがある。「たくさん儲けてるハズなんだから、きちんと全て使途を開示して納得させろ!」と人は言う。ネットでもこの件についていくつかブログなどを見てみたが、どうも、"たくさん儲けてる"という事が悪いのか、"使途が不透明"という事が悪いのか、明確にしている記事とかエントリは見当たらない

確かにIIBCの収益の透明性という面では、非営利団体の原則である"公益"と"共益"いずれかの原則にのっとり使途が明確に定められ、開示されるべきかとは思う。しかし上述の通り、TOEICをここまで普及させ、受験を促進しているという事実だけでも結構この原則を満たしているんじゃないかなあと思う。

事実、僕はとても高い金を払ってTOEICを何度も受験したが、今、海外で人と会って話すときに気後れせずに済むのも、日本国内のパーティーで外人と気楽に話をする事ができるのも、先日とある超VIPの外人とミーティングしたり飲み会したりするチャンスを得ることができたのも、元を正せばTOEICで自分の英語力のヤバさに気づいて必死に基礎や英会話を勉強したから、と言えなくもない。つまり、僕自身の自己実現を助長しているといった意味で、少なくとも僕にとってIIBCは公益という役割を果たしている。

もう一つ、"たくさん儲けている"という点について。TOEICの元締めが儲けまくっているだろうなんて、TOEICを受験したことがある人なら誰しも容易に想像がつくことだ。莫大な金を儲けてるから収益の使途を明確にしないと駄目だ!というのは只の僻みやヤッカミだ。「受験生は高い金を払って受験するのに、収益で役員連中が遊んでいると思うと我慢ならん!」という声もあるようだが、これは余計なお世話だ。何も、国家権力がTOEICを受験する事を強制している訳ではない。受験生は自らの選択で、TOEICでを受験すると決め、その対価を支払っている。本当に高すぎたら受験生など来ないだろうし、それによって得た収益は、例えば電気料金や高速道路の通行料金などと比べれば、公共性が一段落ちるのではないかと思われる。


法律的に今のIIBCのやICSの姿勢がどうなのか、瑕疵があるのかどうかは僕には良く分からない。もしあるならば、もちろん然るべき捜索と是正が必要かな、とも思う。しかし、もしないのであれば、僕個人としては、これらの団体を占めるオジサン達、オバサン達が濡れ手に粟でぼろ儲けして、金をジャブジャブ貯めてうまいもん食ったり、別荘つくって女はべらしたり、高級腕時計を買ったり、海外視察と称してカジノ三昧したり…というのはそんなに批判にあたらないのではとも思う。できれば国内で散財して欲しいけども。