Thee Rang 跡地

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正岡子規の野球魂

 くして病に倒れた天才俳人・文芸家である正岡子規。彼は夏目漱石と親交が深かった事でよく知られているが、実は学生時代は南方熊楠とも同門で、これらの天才たちが同じ時代を生きたという事に、一抹の浪漫を感じ得ない。

ところで、彼は病を患う前まで、野球が大好きだったという。自らもキャッチャーをやっていて、なんと2002年に野球殿堂入りを果たしている。また、有名な話として、ベースボールに対し、訳語である『野球』という単語を初めて使用したのは正岡子規というものがある(意味を当てたのは別人)。他にも「打者」「走者」「四球」「直球」「飛球」など、野球に関する語の多くを日本語化し、野球の日本人への普及に大いに貢献した。

彼の顔写真は下のものがよく知られているが、なるほどよく見ると野球が好きそうな感じがしてくる。

子規の句
斎藤茂吉の随筆に、『子規と野球』という少作品がある。そこでは、子規と野球について手短に回想しているのみだが、ここで子規の野球に関する俳句が数首取り上げられている。あまりに感動したので、いくつかのくだりを以下に引用しておく。

これなど、枕詞を使った言葉遊びが秀逸。

久方のアメリカ人のはじめにしベースボールは見れど飽かぬかも』。子規も明治新派和歌歌人の尖端を行つた人であるが、『久方の』といふ枕言葉は天にかかるものだから同音のアメリカのアメにかけた。かういふ自在の技法をも子規は棄てなかつた。

また、野球を熱烈に賞賛した句もある。


『若人のすなる遊びはさはにあれどベースボールに如くものもあらじ』

これなど、休日のうららかな午後に野球に興じる青年たちの輪郭をうまく切り取っていて、晴れやかな空とたゆたう雲を彷彿とさせる情景描写にすぐれた一句と言える。


『打ち揚ぐるボールは高く雲に入りて又落ち来る人の手の中に』

ランナーフルベースの状態の、高揚感を表したものだろう。『今や』の使い方にスピード感を感じさせられ、あたかも自らもベンチに座っているかのような臨場感を与えてくれる。


『今やかの三つのベースに人満ちてそぞろに胸の打ち騒ぐかな』